イージス配備停止・敵を挑発する弱さ
- 2020.06.28 Sunday
- 16:28
河野太郎防衛相は15日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について、秋田、山口両県に配備するプロセスを停止すると発表した。迎撃ミサイルのブースターに技術的な問題が見つかり、改修にコストや時間がかかるためと説明した。防衛省内で記者団に語った。(中略)同省はこれまで、配備を予定する山口県の陸上自衛隊むつみ演習場で、迎撃ミサイルのブースターロケットを「演習場内に確実に落下させる」と地元に説明してきた。しかし今年に入り、落下場所を制御するためには、ソフトウエアだけではなくハードウエアの改修も必要なことが米国側との協議で判明。新たな迎撃ミサイルの開発にはさらに10年以上、数千億円のコストが想定され、6月初旬に報告を受けた河野氏が「合理的ではない」と判断した。 時事ドットコムニュース 2020/6/15
軍事・防衛を含む外交というものは、動的なものである。
Weakness is provocative = 弱さは挑発する
これを言ったのは前国防長官のドナルド・ラムズフェルドである。「米国が犠牲と忍耐を要する任務を果たす意思・決意を欠いている、と敵が判断するとき、軍事的なバラスが崩れるのと同じ危険性を孕むことになる」とラムズフェルドは辞任する際に警告の言葉を残した。
この日本政府の対応を見て敵はどう思うか。日本は中国、北朝鮮、ロシアという敵国に囲まれている。彼らの目に、この対応はどう映るであろうか。
「日本はさすが高度な民主主義国家なだけあって、住民の安全を何よりも優先する素晴らしい国だ。このような国との友好関係を発展させていきたいものだ。今までの敵対行為を反省して、今後は日本侵略に向けた軍事力を削減しなければ」
このように習近平や金正恩やプーチンが感じるであろうか。いや、感じるわけがない。
「日本は俺らのミサイルよりもブースターが落っこちてくるのが怖くてイージス配備をやめたんだと。それを防衛大臣が涙ぐんで説明したんだと」と哄笑するのはいうまでもなく、これほどに臆病者だらけの国など恐れるに足らず、と日本に対する侵略行為を益々大胆に仕掛けてくるはずである。
数日前に尖閣諸島周辺での中国船航行が連続70日以上を記録した。今までは途中で止めてリセットしていたが、連続日数を記録更新するという行動に中国政府の意思が表れている。中国政府はその日の気分によって来たり来なかったりしているわけではない。来るたびに我々の反応を伺っている。
被害リスクのない戦争はない。戦争をするか否かは自国だけで決められるものではない。実質的に最終的な決定権を持つのは敵国である。こちら側の外交努力にも関わらず、敵国が戦争を始めると決めれば否応なく戦争は始まってしまうものである。
防衛は戦争の一手段である。従って防衛にも被害リスクがある。ブースターの落下はその一つである。そのリスクを0にしたいならば防衛は成り立たないのである。
建国以来、周辺諸国とパレスチナテロの脅威に晒されてきたイスラエルは2011年にミサイル迎撃システムのアイアン・ドームを導入した。当初は70%程度の迎撃率だったものが現在は90%以上に改良されている。それによって死の危険に直接晒されてきた人々がより安全に生活できるようになった。
Iron Dome in Action in Israel | Shooting Down Rockets
そのアイアン・ドームも100%ではないし、100%にはなり得ない。空中で敵のミサイルを迎撃するわけであるから、当たらないこともある。敵のミサイルに当たって撃破しても、全部が粉々になるわけではない。撃破した後の残骸は重力の法則に従って空から落ちてくる。実際に落ちてきた残骸によって人々が怪我をすることがある。故に政府は「迎撃時はシェルターか建物の中に身を隠して外にでないように」と人々に呼びかける。それに対して安全性が保障できないならアイアン・ドームを撤去するように、などというバカはさすがにいない。弾頭が着弾することと残骸が落ちてくることの危険度の違いは明らかだからである。
Israel’s Iron Dome Missile Shield
https://www.voanews.com/middle-east/israels-iron-dome-missile-shield
Man Lightly Hurt by Iron Dome Fallout
http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/162257
Car hit by Iron Dome interception debris
https://www.jpost.com/national-news/car-hit-by-iron-dome-interception-debris
ブースターの落下と核兵器の飛来とどちらが怖いかといえば、核兵器のほうが怖いに決まっている。それは当然なのだが、それよりも怖いのは、ブースターの落下ごときで防衛を先延ばしにすることによって日本の防衛に対する決心の弱さが露呈し、それを見た敵が敵対行為とその大胆さを増長させていくことである。
ブースターの件は5月に判明したというが、それならば判明した時点で、それでもイージス配備が必要であること、ブースター落下について政府・自治体ができることと人々がすべきこと(例えば警報システムとシェルター)を国民に説明し、そもそも防衛が0リスクであるわけがないという事実というか常識を突きつけなければならなかった。
河野大臣は、安全性を保障することのできる新たな迎撃ミサイルの開発にかかる莫大な費用を費やすことを避けた、とさも「合理的」に思考したかのような物言いをしているが、日本国内限定の合理性など中国・北朝鮮・ロシアらの野獣の論理の前に何の意味も持たないということを知るべきである。