ウィテカー・チェンバーズ「Witness(証人)」読了

  • 2014.07.11 Friday
  • 14:58
 元共産主義者にしてアメリカ政府に巣食っていた共産スパイを告発したウィテカー・チェンバーズの著作「Witness(証人)」を読了した。 長い本だった。 長いとは聞いていたが、聞きしに勝る長さであった。 アメリカ人にとっても長いのだから、日本人が読んだら倍以上の体感である。


 

しかし重い内容の本であった。 不遇の幼少時代、冷たい父との相剋、弟の自殺、大学からの中退と共産主義への目覚め、共産主義雑誌への関わりから共産党への入党、公式の共産党からソ連地下組織への移行、ソ連のためのスパイ活動、共産党と共産主義からの離脱、潜伏、タイム誌との出会い、タイム誌での苦しみ、下院非米活動委員会からの召喚と大陪審での証言、共にスパイ活動をしたかつての戦友であるアルジャー・ヒスとの対決、自殺未遂、そして勝利...

 

ルーズベルト政権での財務省高官であったハリー・デクスター・ホワイト(ハル・ノートを書き、日本を対米戦争に陥れた人物)との会話や機密情報の受け渡しの様子などが克明に記されている。 官憲の目を逃れるために時間をあえて2時間ずらして約束して会う日時を決め、監視の目を巻くために散策を装い、書類を手渡し、隠れ家で写真を撮り、マイクロフィルムにしてソ連の情報員に渡しソ連や共産主義の脅威が全く認識されていなかった当時のアメリカにおけるスパイ活動が余すとことなく描写されている。


証言をするチェンバーズ

 

しかしチェンバーズは言う。 深刻だったのは情報収集活動ではなく、政権の外交政策への影響であった、と。 大東亜戦争のおける日本の運命を決したヤルタ会談には大統領顧問としてアルジャー・ヒスが随行している。 中国においてはアメリカは国民党を見捨て、共産党が主導権を握った。 チェンバーズがルーズベルト、トルーマン政権に深く入り込んだ共産ネットワークを告発した1940年代後半にいたるまで、アメリカの外交がソ連の意向に沿った形で操作されいたことは疑うべくもない。

 

日本についても言及がある。 チェンバーズによれば、ソ連の日本への浸透は失敗に終わっている。 ノダという日系米人である共産主義者が当時地下組織のリーダーであったチェンバーズによって日本に送られ、潜入し、活動を試みたものの、失敗して帰還し、失意のうちに病死した経緯が書かれている。 面白いことにノダはなぜか近衛文麿の親戚として書かれているが、それはチェンバーズの勘違いであろう。 おそらくは、ソ連は日本への浸透を試みたが失敗したために、既に政権中枢まで入り込んだアメリカを通じて日米戦争という形で日本潰しと日本の共産化を図ろうとしたのであろう。

 

なぜかくも容易に共産主義者は政権中枢に入り込み、かくも長期にわたって国の政策に影響を及ぼし続けたのか。 チェンバーズはニューディールをはじめとする当時の社会主義的な雰囲気を理由に挙げている。 皆が社会主義者であるなかで、共産主義を告発することは社会を敵に回すに等しかった。 その戦いにおいて、重要な役割を果たした人物の一人が後に大統領となる若き反共の闘士、リチャード・ニクソン下院議員であった。


 

なぜチェンバーズは共産主義から抜け出したのか。 様々な要因が複合的に作用していた、と記されている。 スターリンによる血も涙もない粛清を目の当たりにしたのはその一つであった。 しかし、一つの出来事が無意識の中で共産主義との離脱につながった。 それはチェンバーズ夫妻が授かった子供を共産党が堕胎させようとした時である。 最初はチェンバーズ自身も熱烈な共産主義者として党の意向に沿うつもりであったが、「この小さな子供にそんな酷いことをしないで」という涙ながらの妻の言葉に衝撃を受け、そして喜びの波に襲われた。

 

1950年代からアメリカは共産主義との戦いに突入する。 後にロナルド・レーガンによって共産主義の総本山であるソ連は崩壊させられたが、その戦いの端緒となったのがチェンバーズの告発であった。 歴史の転換点を記す、重要な書である。

 

参考:

http://www.c-span.org/video/?318550-2/cold-war-era-spies

http://whittakerchambers.org/

コメント
If any of your readers are interested in reading Witness by Whittaker Chambers in Japanese and know of a translator or publishing house, please let me know.
Regarding Harry Dexter White, please see the following article: http://hnn.us/article/146358
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