日露経済協力なる敗北外交
- 2016.12.22 Thursday
- 23:08
首相が日露防衛協力を急ぐ理由…中国の膨張する脅威、露との間にくさび
倍晋三首相は対ロシア外交の新たな戦略として自衛隊と露軍の防衛協力の強化を柱に据える。15、16日の日露首脳会談で合意した外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)の再開はその第一歩だ。同盟国である米政府が抱く日露接近の懸念を振り切ってまで日露防衛協力を急ぐのは、なぜか。中国の軍事的脅威が眼前に迫った現実的な危機に変質するにつれ、防衛省・自衛隊では露軍との協力が必要との認識が高まっていた。シーレーン(海上交通路)である太平洋、インド洋、北極海で支配する領域を膨張させようとする中国を押さえ込むには、日露が補完しあえる分野があると踏んでいたからだ。 産経新聞
産経新聞によると、「日露の信頼醸成は中露の間にくさびを打ち込むことにつながる」そうである。「日本がロシアを見方につけ、中国にとって脅威と映れば中国は相応の軍事力をロシアに向けて貼り付けなければならなくなる」らしい。
誠に幼稚な世界観である。
これを書いている人間達は「大人の分析」をしている気分にでもなっているのであろうが、実に軽薄かつ愚鈍である。
二つの強力な敵国を相互に離反させ、敵対させる、というのは高度な諜報活動を要する隠密行動である。相互の信頼関係を破壊し、相互に疑心暗鬼を起こさせ、相互に敵愾心を抱かせ、相互の関係を修復不可能にし、一触即発の状態にもっていく。このようなことをするには何年にもわたる両国政府への工作員による浸透が必要である。誰にもそうとは感づかれずにじわじわと両国の関係を変えていく。これは1930年代にソ連によって実際にアメリカ、日本、イギリスで行われた諜報工作である。
例えば中露関係が険悪化するなかで中露国境付近で立て続けに爆発があり、中国はロシアを、ロシアは中国を非難。緊張が走る中、どこからともなく銃撃が始まり、混乱の中で戦闘行為がエスカレート。怒りで激高した両国の国民は激烈な報復を叫び、両国はなし崩し的に戦争へと突入。実は両国を離反させ、戦闘行為を引き起こしたのは日本の工作員なのだが、世界の誰もがそのような事実を露知らず。日本は中露が互いに殺し合うのを高みの見物と決め込む。
そんなことができるのであれば、それが本当の「くさびを打ち込む」である。
新聞が「両国の関係にくさびを打ち込む」などと報道して「種明かし」し、それを読んで「深い分析だ」などと持ち上げる。これほど滑稽なことはない。
中露の工作員は早速これを本国に送信し、これを読んだ中露の政府首脳はあまりのバカさ加減に失笑をもらしたことであろう。
このような融和外交は歴史上稀ではない。例えばニクソン・キッシンジャーの対ソ連、中国外交。ニクソンとキッシンジャーはレアル・ポリティークと称して中国への敵対姿勢を緩和し、ソ連に対して中途半端な「デタント」「封じ込め」という外交を行った。ニクソンとキッシンジャーはこれを地政学上の現実に立脚した冷徹な計算による外交と考えたのであろうが、結果は共産圏を増長させただけであった。
ニクソン、キッシンジャーの融和外交に真っ向から挑戦したのがロナルド・レーガンの強硬政策であった。レーガンはソ連を「悪の帝国」と名指しし、軍拡を進めて最新鋭の兵器を配備し、経済力で圧倒し、そしてソ連を崩壊せしめた。
プーチンはソ連、KGBの生き残りである。プーチンは言った。「20世紀の最大の悲劇はソ連の崩壊である」と。プーチンは権力を自らに集中させるために邪魔になる人間を次々と葬ってきた。覇権国家ロシアの復活とそのロシアに君臨する自分。これがプーチンの全てである。
ロシア、そして中国の指導層は蛇のように抜け目がなく狡猾である。彼らが安倍政権の「ロシアへの経済協力」ごときでコロリと騙されこちらの意のままに動くだだろうなどと考えるのは幼稚園児の発想である。
彼らの獰猛な鋭い目は敵の弱さを見逃すことはない。凄みをきかせて睨みつけ、怖気づいた相手がしっぽを巻いて縮こまる様をじっと見ている。
今の日本は蛇の前で哀れな姿を晒すモルモットのようなものである。蛇がモルモットに噛みつかないのは虎(アメリカ)が横にいるからである。だがその虎も蛇に対する警戒心を解きつつある。モルモットは薄々危険を感じつつもなすすべがない。なすすべがないからひと時の安心を得たいがために自己欺瞞に走る。蛇に対して自分の体の一部を差し出し、それと引き換えに命をお助けください、と懇願する。
これが安倍外交であり、安倍外交は敗北外交である。問題はその安倍を支持する国民である。彼らは現実に向き合うことができない。
「でも安倍さん以上の人材がいないから」
日本は危機に晒される。だが少なくとも安倍と安倍政権の敗北外交は安泰である。彼らがそう言いつつ支持率を支える限り。