規制緩和
- 2010.12.22 Wednesday
- 22:24
市場経済原理導入と規制撤廃は悪影響を及ぼすことがある、という意見に出るのがタクシーである。 小泉政権時代にタクシー業界の新規参入規制を緩和したとき、タクシー台数のだぶつき、一台あたりの利益率下落をもたらし、その結果タクシー料金低下ではなく上昇をもたらした、ということらしい。 批判論者は、普通タクシーを拾うときには道に立ってやってきたタクシーに適当に手を振るだけで、会社で選ぶひとはいない、また選びようが無い、だから市場経済原理は適用され得ないという。
このようなことを言うのは小学生ではなくて難関大学を卒業して海外へ留学し、MBAを取得してコンサルティング会社でいい給料を取っている人間である。 そこまでしても市場経済原理が全く分かっていないのだ。 こんな人間に誰が何を相談するのか不思議である。 有名大学、海外留学、MBAがいかに無価値であるかを語っている。
市場経済というのは、個人ひとりひとりの小さな経済的決断が原点である。 家を出てから駅に着くまでの間、自動販売機で缶コーヒーを買うか、コンビニで菓子を買うか、駅前で今川焼きを買うか、何も買わないか。 そういった小さな決断は個人の経済状況、好み、習慣、考え方によって左右される。 少し大きくなると、パソコンを買うか、洗濯機を買うか、何も買わないか、の選択である。 更に大きくなれば、自分でやっているレストランのメニューに安い素材を使うか、高くてももっと良い素材を使うか、の選択である。 選択や決断には失敗もあれば成功もある。 そして失敗や成功のインパクトはあくまでも個人あるいは会社の影響範囲内での話しである。 個人の失敗が国家的な損害をもたらすことは無い。
これら小さな経済的決断の影響は細かな波動であるが、それらが衝突、消滅、起動修正などを繰り返しながら幾つかの大きなベクトルとなる。 それが所謂大人気商品や大人気店という現象である。
自由な経済活動には必ず失敗がある。 大会社、大工場が倒産すれば、零細企業に比べれば当然その影響は大きい。 しかし、それでも国家的な損害をもたらすことは無い。 優れた生産設備や機能を持った会社であれば、必ずそれを安く買い取りたい競合社がいる。 彼らは倒産企業を買収した後、会社が傾く原因となった無駄な部分をそぎ落として業務改善を行い、企業は再生へと向かう。 そして健全になった企業は更に人を雇用する。 逆に優れた部分の無い会社はそのまま朽ち果てるだろ。 それはそのような企業が存在したことが間違いだからであり、消滅するのが社会のためである。
タクシーは個人を乗せるものであるから、結局は個人個人の小さな決断の上に成り立っているのである。 一台のタクシーの競合はもう一台のタクシーとは限らない。 個人はその時々の状況でタクシーよりも電車を、バスを、徒歩を、またはレンタカーを、またはカプセルホテルを選ぶだろう。
タクシーは選びようが無いというのは狭い世界の想像力の欠如した頭から出てくる考えである。 実際、今の日本のタクシーのように全部が同じであれば選ぶのは確かに難しいだろうが、海外に出てみれば、上海でさえもそれぞれの会社が自分達のカラーを出しており、人々が選んで乗車しているのが分かるだろう。 ブレーキパッドが磨り減った中古と、ピカピカの新車が同時に目の前にあれば、どちらに乗りたいか、明白ではないか。
いずれにしても、自社のタクシーを客から選んでもらえるようにするにはどうしたらよいかを考えるのはタクシー会社の社長の仕事であって、一般消費者や役人が頭を悩ませることではないということだ。 赤の車と黒の車は区別がつかないのか。 7色の車と車体全部がイラストやグラビア写真の車は区別がつかないのか。 静寂を売りにするも良いし、ジュークボックス化した車内をアピールするも良い。 安さや速さを売りにするも良い。 現状では選びようが無いのであれば、選んでもらえるようにすれば良いだけなのである。 世の中のあらゆる商品はそのようにして選んでもらうことによって生き残り、選ばれないことで淘汰されるのだ。
規制緩和は、既得権側にとっては痛みが伴う。 努力しても割に合わないのであれば辞めればよい。 それでもとことん歯を食いしばるのならそれも良い。 地理を熟知し、車の運転に長け、客扱いがうまければ他にすることはあるだろう。 タクシーにしがみつくか、他の道を歩むかは個人の決断である。
そこへ政府が余計な手をだせば、余計な規制を設ければ、市場原理は崩れる。 回るべき金が回らなくなる。 政府の決断は個人や個々の会社の及ぼす影響の比ではない。 非常に強力である。 政府は政策を実行するのに強制力が必要だ。 強制力は法である。 法とは社会全体を覆う網である。 だから政府による間違った政策は国家的な損害をもたらす危険性があるのだ。 そして政府というのは一握りの人間達で構成されているのであり、往々にして上記コンサルタントのような高学歴者である。 とんだ間違いを犯す危険性は非常に高い。