日下公人と伊藤貫共著の『自主防衛を急げ』の骨子は次の通り。
- 自分の国を自分で守るのは当然の義務である。
- その義務を果たさない国にレジティマシーが無い。
- 自主独立の気概を持つべし。
- 独立核を持ったインドに学べ。 インドが核を保有した当時は非難を受けたが核を持ったことによる強みが効いて国際社会から認められた。
- アメリカは頼りにならない。 過去にアメリカの高官は日本の有事に自国の兵士を危険に晒すことはないと再三にわたって明言している。
- 核の傘は当てにならない。 日本が核攻撃を受けたらアメリカが必ず報復するという保障は無いのだから。
- ニュークリア・シェアリングは自主防衛とはならない。 受け渡しの決定権はアメリカ大統領ないしはアメリカ議会にあるのだから。
- 日本を守れるのは結局は日本だけである。
骨子は良い。 私から付け加えるとすれば、自主防衛と核武装はイスラエルに学ぶべき、ということである。 小さな国土と敵に囲まれた厳しい環境で生き残り、立派に経済を発展させきたこの国の姿勢から学ぶことは多いはずである。
この本は随所に間違いを含んでいる。 そして深刻な左翼の毒にちりばめられている。 したがって防衛に興味ある人間は上に挙げた項目だけ読んだらそれで十分である。 上の項目を頭において、どうすればよいか自分で考えるべきである。 この本は読むべきではない。 間違いと毒でむしろ悪影響を与える本である。
伊藤貫という人物はアメリカ在住が長いようであるが、アメリカを熟知しているとは思えない。 むしろ肝心なことを全く理解していない。 イスラエルをバッシングするが中東のことも全く理解していない。 リベラルの特殊な考えに偏っており保守ではない。 そして氏が取り上げる人物はどれも保守ではないどころかいかがわしい際物である。
その代表がミアシャイマーという人物。 こんな変な名前は聞き覚えがないと思って調べてみたら分かったが、「The Israel Lobby and U.S. Foreign Policy 『イスラエルロビーとアメリカの外交政策』」という本の著者である。 この本は反ユダヤ主義に根差した陰謀論である。 ユダヤ人がアメリカ政界を操作し、イスラエルに有利な外交をするよう仕向けている、という根も葉もないガセネタである。 ゴミである。 私は一行も読んでいない。 なぜならばゴミだからである。 反資本主義・反ユダヤ・反イスラエルの極左ノーム・チョムスキーからは高く評価されているそうで何とも不名誉なことである。
氏は殊更にイスラエルを中国、ロシアと並べて覇権主義国家と呼び貶める。 イスラエルの面積はニュージャージー州程度である。 ちっぼけな国土である。 この国がいつ誰に対して覇権を主張したのか。 それどころか、6日戦争以来、国土は縮小する一方である。 現在までにシナイ半島、南レバノン、ガザを手放している。 土地を次々と手放す覇権国家があり得るだろうか、ということである。
氏はイスラエルの6日戦争が国際法違反のパレスチナ侵略と呼び、イスラエルの軍事行動をパレスチナ人虐殺と呼んでいる。 市民の犠牲者を最小化せんとするイスラエルと、市民の犠牲者を最大化せんとするパレスチナ・テロ側の戦いをこのように表現する氏の視点の偏りと不道徳さと意地悪さは南京大虐殺をでっち上げたアイリス・チャンといい勝負である。
氏はアメリカの戦争は全部悪だとしている。 インディアン制圧、南北戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争、これら全部を十把一絡げで愚劣な戦争と評している。 ベトナム戦争はアメリカがベトナム全土を共産化させようとする北ベトナムに対抗する南ベトナムを支援して起きた戦争である。 ニクソン時代に完全に勝利を収めたにも関わらず、次のフォード時代に民主党議会が南ベトナムへの戦力支援継続を拒否したために北ベトナムが勢力を盛り返して泥沼化したのである。 アメリカが敗退したのはリベラル勢力の妨害のせいであって決して「ベトナムに大義があったから」などではない。 サイゴン陥落後多くのベトナム人が共産主義者の暴力の犠牲になり、更にはカンボジアの大虐殺が引き起こされた。 氏がことを忘れたのか分かっていないのか知らないが、いずれにしてもこの不見識は青い左翼青年そものもである。
氏はイラク戦争の理由づけとなった証拠を捏造としている。 また戦争そものもを国際法違反であり不必要であるとしている。 このセリフも左翼原産である。 当時は共和党も民主党も一致してイラクのアメリカへの脅威を認識し、国益と安全を守るために議会の承認を得て開戦に踏み切ったのである。 「大量破壊兵器」だけが理由ではなかったのである。 むしろサダム・フセインこそが大量破壊兵器なのだから、何も問題も無いのである。
氏はブッシュ大統領を殊更馬鹿にする。 ブッシュよりもクリントンはましだった、オバマもましであると。 「ブッシュがビン・ラディンより怖かった」とまで言う。 氏は9.11で犠牲になったのはアメリカ人だけではないこと、その後イギリスも、スペインも、インドネシアもイスラム・テロの犠牲となったことを知らない。 少なくともアメリカを素早く立ち直らせ、その後今に至るまで同様のテロを防いだブッシュの功績を認める良識はないのか。 9.11は前任のクリントンがテロを野放しにしたために起きたものである。 オバマはブッシュが国民の安全を維持するために行った数々の政策を反故にしている。 それをブッシュよりまし、とはあまりにもふざけていないか。
経済のことも語っているが、「デリバティブはニューヨークのユダヤ人が金儲けを企んで作った」などというのは失笑ものである。 この本の目的は日本の防衛ではなくユダヤ人叩きか、と言いたくなる。 Community Reinvestment Actをカーターが成立させ、クリントンが推進し、低所得者への住宅融資を民主党議員が銀行に強制したことから投資家がリスクを分散させるためにデリバティブが生まれたという経緯を知らないのか、ということである。 左翼運動による市場の攪乱が破滅的な結果を生んだという事実を知らないのか、ということである。
伊藤氏と共同執筆者の日下氏にアドバイスするとしたら次のとおりである。 アメリカを正しく判断したければ、亜流ではなく、保守本流を見るべきである。 2012年大統領選挙は保守本流の回帰となる。 オバマ政権はもう終わりである。 アメリカ本来の保守であり、合衆国憲法オリジナリストであり、バランスのとれた知性と経験を持つミシェル・バックマン、ハーマン・ケイン、リック・サントラム、彼らのいずれかが次期大統領の本命候補である。 彼らの原点はレーガンが命を吹き込んだ保守運動である。 彼らの思想にこそ着目するべきである。