医療崩壊への道・回避への道・発展への道
- 2013.07.22 Monday
- 18:07
8割が当直明けも通常勤務=医師、半数が健康不安―労組調査
勤務医の8割が、当直明けの翌日も1日通常勤務をこなしていることが20日までに、労働組合「全国医師ユニオン」などの調査で分かった。半数が健康に不安を抱え、担当者は「医師不足による過重な負担が続いている」としている。 調査は昨年6〜9月、日本医療労働組合連合会や関係学会を通じて勤務医にアンケートを呼び掛け、2108人から回答を得た。 それによると、当直を行う勤務医の79.4%は、当直明けの翌日も1日勤務し、32時間以上連続で働いていた。全体の46.6%が健康状態に何らかの不安を感じると回答。最近辞めたいと思ったことがある人は61.7%に上った。
「調査により実態が分かった」というが、それにしても、同じような調査を何度繰り返したら気が済むのか。 医師や看護師は緊張した状態の中で病人や怪我人と相対しているのであって、入れ替わり立ち代わり調査に訪れる人間や「調査のためこの用紙に記入してください」などという依頼を何度も受ける時間があるくらいならば「せめて休ませてくれ」と言いたくなるのではないか。
- 医師が過労死の危機に直面している
- 医師不足が危機的だ
- 医師の大半が疲労を訴えている
- 医師の多くが辞めたいと考えている
- 医師だけでなく、看護師も…
そんな話は何年も前から出ている。 今更調査もへったくれもない。 益々酷くなる現状を確認するだけのことである。 それで、何をするでもなく、何をしたいでもなく、何が出来るでもなく、「国は事態を重く見て対処しなければならない」くらいのコメントを発するくらいが関の山である。
世の中には教育、医療、芸術といった分野に関わる労働、あるいは労働そのものを、「商品ではない」と言いたがる人間がいる。 言いたければ好きなことを言えばよいわけだが、問題は誰が何といおうが、それらを取り巻く現実は微動だにしないということである。 その現実とは、対価を求めるあらゆる活動は、その価値は市場原理によって決定されるということである。 たとえ政府の政策やメディアの報道や社会一般の通念がその現実を「見えにくいもの」としていても、「イラッシャイ・ラッシャイ・ラッシャイぃぃぃ きょうは大根安いよぅ」と威勢よく声を張り上げる八百屋さんで「安いな」と思えば買うし、「高いな」と思えば買わない、それと全く同じ現象が結局は起こるのである。
国民皆保険制度によって医師の診療報酬は低く一定に抑えられている。 医師会のウェブサイトがその事実を挙げ、「いかに国民皆保険制度が素晴らしいか」の理由としている。 だが「報酬が低く一定に抑えられている」という事は「運営コストが低く一定に抑えられている」事を意味しない。 逆に言えるのは、「報酬が低く一定に抑えられている」ことによって「運営コストが低く一定に抑えられている」という勘違いを世間一般に広めているのである。 世間一般の人々はその「勘違い」に基づいて行動する。 「安いな」と。 その「安いな」とは「高いな」が自然と誘発するブレーキ作用が外れた状態である。 その状態が誘発する行動パターンは様々であるが、一概に言えるのは、人々はより頻繁に病院を訪れるようになるということ、すなわち、病院が混む状況を作り出す、ということである。
一方、医師にとって「報酬が低く一定に抑えられている」という事は「勘違い」でも「幻」でもない。 現実である。 「もっと医師や看護師を増やしたいのですが、今の報酬では人材をこれ以上増やすのが難しい状況です」とは病院からよく聞かれる説明である。 すなわち、一般的には高収入と思われている医師や看護師という職業も、その業務の負担を考えれば魅力的ではないという事である。 特に救急医や産婦人科は訴訟のリスクが高くなり手が少ない。 大学・大学院・医師免許・臨床研修医...と多額の先行投資と長い努力の道のりを経て獲得した医師の地位を危険に晒すのを避けようとするのは当然であろう。
国民皆保険制度によって医師の診療報酬は低く一定に抑えられている。 それによって二つの事象が同時に進行している。
- 医師・看護師のなり手が減少する
- 患者数が増える
その結果...
医療"制度"崩壊ではない。 「制度」など崩壊してもよい。 崩壊して困るのは「医療」である。
崩壊を回避し、状況の改善へと向かう道はどこにあるのか。 それは「崩壊への道」を眺めれば自ずから導き出されるのである。 「崩壊への道」をそれ以上進まず、立ち止まり、踵を返し、逆に向かい、歩み始めればよいのである。
いうなれば、皆保険"制度"をはじめとする医療に巣食う各種の「制度」を崩壊させることである。 くどくど言うよりも図を眺めれば分かりやすい。 何度も同じような調査を繰り返すのではなく、実のある議論をすべしである。
注1) greenwich @bobbygetshomeさんからのアドバイスにより追記
追記:
国際労働機関 ILO「労働は商品ではない!」
林野庁 木材利用ポイント ここでも医療に似た、官の介在が問題を悪化させる負のスパイラルがある