「Going to Pot」読了 - 麻薬合法化との戦い
- 2015.09.27 Sunday
- 18:20
2016年のアメリカ大統領選挙に先駆け、既に共和党では選挙活動が始まっている。前回の二回目となる討論会では「大麻を合法化すべきか否か」が議論された。合法化に傾いているのはロン・ポールの息子、ランド・ポール。最近日本でも大麻を合法化すべきではないか、という議論が見られるようになった。
本書「Going to Pot」は、このような合法化・非犯罪化へ向かう世論への反撃である。
大麻合法化は右(主にリバタリアン)と左が意見の一致を見る例外的な問題である。両者ともに「選択の自由」を理由に挙げる。個人は自由であるべきだ。間違いを犯す自由や自分の体を害する自由をも認めるのが本当の自由である。またこれは(米国の場合)州の裁量に任されるべき問題である。彼らはそのように主張する。
人は自分の腕を自由に振り回す権利がある。だがその権利は拳が他人の鼻に当たらない限り(あるいは恐怖を与えない限り)においてである。
大麻合法化はその意味において自由の問題ではない。なぜならば、合法化によって関係のない他人が危険に晒され、社会全体の自由が減少するからである。
自由は文明を基盤とする。文明は文明的で道徳的で勤勉な市民の存在を基盤とする。そしてそれらは人々の健康な心と体に依拠する。麻薬はこれらすべてを破壊する。よって自由の敵である。
合法化論者は合法化・非犯罪化を実施した各国の「成功事例」を挙げる。ヨーロッパではオランダ、ポルトガル、アメリカではコロラド州、アラスカ州がある。だがこれらの国・地域は成功事例ではない。なぜならば、彼らは合法化・非犯罪化を悔いているからである。
麻薬合法化・非犯罪化は製品品質の向上、犯罪の減少、ブラックマーケットの減少、そして税収の増加を実現する。そのように合法化論者は主張してきた。だがこれらの国・地域では逆の現象が起きている。
これらの国・地域では公共の場所における酩酊・奇行、自動車の衝突事故、救急病棟での対応、依存症、爆発事故(麻薬精製に引火性物質を使うため)は増加の一途を辿っている。
一旦法的なタガが外れればどうなるか。麻薬を合法化するということは、麻薬がより簡単に手に入るようになるということを意味する。各国の事例から言えるのは、それが「医療目的」であろうが「嗜好目的」であろうが、結果に大差ないということである。
ある国や地域で合法化されれば、その周辺国(欧州のように往来が自由な場合は特に)や地域に影響する。人々は麻薬を吸いに州を越え、国を超えてやってくる。そしてラリッて帰る。麻薬は合法地域から非合法地域へ密輸され、非合法地域ではブラックマーケット化する。麻薬を非合法化しておきたい、と願う人々の鼻に、麻薬を合法化したい、と願う人々の拳が直撃しているわけである。
合法化論者の理論はプロパガンダに基づいている。その一つは、「麻薬戦争は失敗に終わった」である。「かつての禁酒法も失敗だったではないか」と。
麻薬に対して厳しい態度が維持されていたレーガン・ブッシュの時代は麻薬の使用が下降の一途を辿っている。だがヒッピー世代のクリントンが就任してからは御覧のとおり。
シンガポールは麻薬に厳しい国の一つである。麻薬所持はむち打ちか死刑である。結果としてシンガポールでは麻薬を吸う人間はほぼ存在しない。そこまでやるかどうかは別として、断固たる態度で臨めば麻薬使用は減るという証拠である。
「”麻薬所持だけ”で逮捕された”普通の”人々で刑務所がいっぱいだ。彼らのために税金が消え行く」という話もある。
だが実際には麻薬関連で服役している人間の99%は不法売人であるか、他の犯罪で逮捕された後で麻薬所持が見つかった人間である。麻薬合法化によって服役者の数が大幅に減ることはない。
禁酒法はどうか。
肝硬変による死者は1911年に10万人中29.5人だったのが1929年には10.7人へ減少。精神病棟での受入は1919年に10万人中10.1人だったのが1929年には4.7人へ減少。1916年から1922年にかけて飲酒による暴力行為での逮捕は50%減少。
禁酒法は、好むと好まざるとに関わらず、「アルコール摂取量」という一点に限れば間違いなく「効いた」のである。
もう一つのプロパガンダは、「大麻はタバコやアルコールよりも害が少ない」というものである。
麻薬と同じようにアルコールもタバコも習慣性がある。
しかし;
ちょっとビールやワインをひっかけて仕事に戻ることはできる。グラスを傾けながら延々と真面目な会話をすることも可能である。タバコをいくら吸っても肺はニコチンで黒くなり、息はタバコ臭くなるが頭がイカれることはない。
だが麻薬を吸えば「ハイ」になる。それが目的なのだから当然である。
タバコの害は大麻でも同じかそれ以上である。だが実際にはタバコによる害で病気になったり死んだりする人間がはるかに多い。それはなぜか?理由は簡単である。タバコは合法だからである。合法であること=供給量が多い=影響が大きい、ということである。
百歩譲って仮に大麻とタバコ、アルコールの害が同等だったとする。
「大麻を禁止するならタバコ、アルコールも禁止しなければ不公平だ」
「タバコ、アルコールを野放しにして大麻を禁じるのは偽善だ」
合法化論者はこのように挑む。だが簡単な話である。タバコも酒も一定の害がある。既にこれらは人々の生活に深く根を下ろしている。これらによる害はなるべく軽減すべきである。そこでなぜもう一つの大きな害をもたらす大麻というものを合法化する必要があるであろうか。なぜ更に状況を悪化させる必要があるであろうか。と、いうことである。
しかも大麻の「薬効成分」であるTHC (Tetrahydrocannabinol)の強さは60年〜80年代初頭と現在とでは比べ物にならない。60年代に「軽く吸ってリラックスする」程度ですんでいたものが、現在ではショック死をもたらすほどである。
大麻等の麻薬によって人々は何を得るのか?
精神病、肺がん、IQの低下(若年であれば取り戻しがきかない)、生産性の低下、目的意識(やる気)の低下、そして家族の不安と悲しみ。若者は将来を奪われ、家族は壊れ、結婚は壊れ、社会から自由が消える。
大麻合法化あるいは非犯罪化は敗北である。悪への敗北から善が生じることはない。ましてやそれによって自由が増大することなどあり得ない。
音楽、映画、ドラマからは我々の麻薬に対する警戒心を鈍化させるようなメッセージが垂れ流される。自由を愛し、次なる世代の未来を案じる我々はこの流れに断固抵抗しなければならない。そのための情報武装を助けてくれるのが本書である。
最後に;
"Would you rather get in an airplane where the pilot just smoked a cigarette or a joint?" Dennis Prager
「パイロットがタバコを一服したばかりの飛行機と、パイロットが大麻を吸ったばかりの飛行機と、あなたならどちらに乗りたいですか?」 デニス・プレーガー
追記:
癌、エイズ、緑内障等、大麻の成分が一部の病気に対して薬効があるのは確かである。しかし答えは「大麻を吸う」ことではない。MarinolやSativexといった大麻の成分と同じ化学構造を持った薬が開発されている。当然のことであるが、「薬」というからには投薬がコントロールされなければならない。製薬会社は組織の存続をかけてリスクを取りつつ成長のために新薬を市場に投入する。答えは「薬」であって「ドラッグ」ではない。
Going to Pot: Why the Rush to Legalize Marijuana Is Harming America
麻薬に対して厳罰で臨むシンガポールは世界でもトップクラスの自由な国であることを特筆しておきたい(ヘリテージ財団・自由の指標)