共和党ディベート・フロリダ クルーズ、大統領の風格
- 2016.03.13 Sunday
- 01:04
今回のディベートはクルーズとトランプの二名に絞られつつある共和党指名争いにふさわしいものであった。CNNの司会者、ジェイク・タッパーの手腕によるところが大きい。前回二つのディベートのようななじりあいは影を潜め、真面目な政策論争が戦われた。
ドナルド・トランプは辣腕ビジネスマンとして「腐った政治を外から変える!」を売り文句に、密室政治クラブと化した共和党指導部に愛想をつかした怒れる人々の支持を集めてきた。
だが今回のディベートで明らかになったのは、他でもないトランプこそが密室政治クラブの長年のメンバーだということ、そして何ら斬新な考えもなければ洞察も見識も持ち合わせていない凡庸な人物だということである。
光ったのはやはりクルーズであった。強固な保守主義と確かな見識に裏付けられた弁舌は益々冴え、大統領の風格さえ漂わせはじめたと言っても過言ではない。
マーコ・ルビオは健闘した。ルビオには指名獲得の可能性はほとんどない。だが大統領の代弁者たる副大統領にふさわしい弁舌を持っている。今回はその良い面が存分に発揮された。
国際経済について・・・
トランプが十八番を披露する。
「中国や日本は通貨を操作して不当に安い商品をアメリカ市場にダンピングする!そういうのは許さん!俺はハードネゴでもっと良い、素晴らしい取引条件を勝ち取る!」
トランプはかねてから中国製品に対して45%の関税をかけることを提唱している。
クルーズが答える。
「輸入品に関税をかけて困るのはアメリカの消費者だ。かつてのスムート・ホーリー法は大不況をもたらした。関税というのは消費者への税金なのだ」
トランプが強面でやり返す。「45%というのは実際にかける、ということじゃなくて、中国への脅しだ!」
クルーズが返す。
「脅し・・・。トランプ氏は中国を脅しているのではなくて、消費者である皆さんを脅しているのです。皆さんが店で買い物をするあらゆる商品に45%の関税をかける、と皆さんを脅しているのです。大統領になろうとする者には見識が必要なのです」
社会福祉について・・・
トランプはかねてから現行の社会福祉を維持すると明言してきた。そしてそのために「俺はムダと詐欺と腐敗を一掃する!」と。だがそれ以上に具体的な政策は語られていない。今回そこを追求された。数字の辻褄が合わないが、具体的に何をするのかと。
トランプは苦し紛れに答える。
「アメリカは軍を世界中に配備しているじゃないか!日本、韓国、ドイツ、それからサウジアラビア・・・これが無駄なんだよ」
「俺はアメリカ軍を最強にする。任せろ!」と常々言っているトランプにしてはしょぼい回答である。
クルーズが切り込む。
「社会福祉の問題に対処するためには勇気がいる。老齢の人々には政府が約束した恩恵を与えなければならない。だが若い人々には市場経済に即した選択肢を与えなければならない・・・
トランプの言う『ムダと詐欺と腐敗の一掃』はリベラルの政策である。なぜならば『Government is the problem = 政府こそが問題だ』という物事の本質が分かっていないからだ。実際にトランプは長年民主党員への政治献金を行ってきた。
The less government, the more freedom!
政府は小さければ小さいほど自由は増大する!
The fewer bureaucrats, the more prosperity!
役人が少なければ少ないほど富は膨らむ!」
大歓声
イスラムについて・・・
「俺はイスラム教徒におもねったりしない!もうPC(政治的正しさ)なんぞ必要ない!」
トランプは息巻く。この勢いの良さが大いにウケているのは事実である。
だがクルーズは爆弾を用意していた。
「トランプの言葉は威勢が良い。だが詳細を見るとどうか。トランプはイランとの核合意を維持すると言う。またイスラエルとパレスチナとは分け隔てなく接すると言う。ヒラリーやジョン・ケリーのように・・・」
「つい先日もアメリカ人がパレスチナのテロリストに殺害されたばかりだ。私は大統領として明確にイスラエル指示の立場を取る!」
大歓声
クルーズは更にたたみかける。
「イスラエルは中東で唯一我々と価値観を共有する国である。テロリストの家族に金を渡して煽るパレスチナ自治政府とイスラエルをどうして同等に扱えようか!」
大歓声
キューバについて・・・
クルーズもルビオもキューバ系である。それがゆえに尚更キューバを支配する共産主義政権に対する見方は厳しい。
オバマの対キューバ融和政策に支持を表明してきたトランプに対してルビオが迫る。
「キューバとの関係は変わるべきである。そのためにキューバの政権が変わらなければならない。だがキューバは北朝鮮を陰で支援し制裁を骨抜きにしている。
ミャンマーを見よ。かつては独裁的な軍政だったがいまや自由化が進められている。キューバへもこのような変化を要求しなければならない!」
トランプは言う。「俺に任せれば良い条件を引き出すぜ」
ルビオは返す。「私はあるべき条件が何かを知っている。それはキューバが自由選挙を実施すること。それはキューバが人々を牢獄から開放すること。それはキューバが言論の自由を保障することだ!」
大歓声
そしてクルーズがイランやキューバといった狼藉国家との融和外交を進めるオバマ政権とその主要メンバーを支援してきたのがトランプであることを再び強調し、トランプの決まり文句である「もっと良い取引条件」は民主党の政策の焼き直しに過ぎないことを印象づける。
トランプは”インサイダー”・・・
トランプは常々言う。「俺は他の誰よりも”仕組み”を熟知している。だから良い取引条件が勝ち取れるんだ。だから大統領になったら国を再び偉大にできるのだ」と。
トランプの言うことは正しい。なぜならば、トランプこそが”インサイダー”だからである。
この後ディベートは残り一回となった。
インサイダーが勝つか、保守主義者が勝つか・・・ 選挙戦は終盤へと突入する。